私はこれまでWebディレクターとして大小様々なサイト設計に携わり、近年はUI/UXが重視される背景もあり、ヒューリスティック調査(専門家の知見に基づいたUI/UX評価)にも力を入れてきました。
そんな私の「職業病」とも言えるのが、日常生活で触れるあらゆる制作物が気になり、無意識に分析・評価してしまうことです。
Webサイトやアプリはもちろん、街の看板、電車内の広告、レストランのメニュー表、病院の予約システムから配送業者の再配達予約に至るまで。気がつけばUI/UXを分析してしまっています。
「このデザインの狙いは?」「なぜイケてる(またはイケてない)と感じるのか?」「このボタンの配置、操作性や可読性はどうなのか?」と、常に脳内で採点している状態です。そのおかげで、毎日片道1.5時間の電車通勤も車内広告を観察しているとさほど長く感じません。
そんな私には子どもがおり、現在も育児に奮闘中です。 今回は、私自身の過酷な育児を支えてくれたアプリやWebサービスの中から「これはUI/UXが本当に優秀だ!」と唸った神アプリをピックアップし、Webディレクターの本気目線で分析・ご紹介したいと思います。
『ママパパマップ』は、全国の授乳室やオムツ替えスペースを現在地から瞬時に検索できるマップアプリです。ユーザーのニーズに合わせて進化を続け、詳細な条件での絞り込み機能に加え、実際に利用した親から写真や口コミが豊富に集まり、赤ちゃん連れのお出かけを強力にサポートします。
一般的なマップアプリなら「授乳室あり」というフラグ1つで終わらせるところを、「お湯があるか」「電子レンジはあるか」「男性も入室可能か」「ベビーカーごと入れる広さか」など、育児中の親が本当に知りたいニッチな条件(ユーザーの課題)を完全に網羅・構造化している点が秀逸だと思います。私はこの男性利用可否の情報で何度も助けられました。
焦っている時に文字を読ませるのではなく、地図上のピンの色やアイコンの形だけで「そこに行けば何が解決するのか」が直感的にわかるUI設計。現在地からの距離感やルートへのシームレスな連携など、「認知負荷」を極限まで下げるための無駄のない引き算のデザインとして評価できます。
公式情報だけでなく、「実際の写真」や「親のリアルな口コミ」が集まる仕組みが秀逸です。これにより「入り口の段差の有無」や「清潔感」といった、公式には出づらい定性的な情報をユーザー同士で補完し合える仕組みが作られています。
『キッズドクター』は、子どもの急な体調不良時に、スマホから医療専門家に頼れる小児医療アプリです。病院が閉まっている夜間や休日でも、無料で看護師にチャット相談ができるほか、必要に応じてビデオ通話でのオンライン診療や、医師が自宅に来てくれる往診の手配まで、アプリひとつでシームレスに完結します。
私が利用したのは2歳の子が夜中に高熱を出した時でした。泣き叫ぶ我が子を前に、文字を読んだり複雑な入力をする余裕は1ミリもありません。
『キッズドクター』の素晴らしい点は、そんな状況でも迷わない「読ませない・考えさせないUI」です。医学用語は使わず、「熱がある」など見たままの症状をタップするだけ。パニックで低下した認知リソースを考慮し、極限まで手数を減らした「引き算のUI」はユーザー中心設計の鑑です。
オンライン診療の待ち時間は先が見えないと不安になりがちですが、このアプリは「現在の状況」や「待ち人数」などの進捗をリアルタイムで可視化します。
ディレクター視点で見ると、これは単なる機能実装ではなく、「待たされているユーザーの不安をシステムでどう解決するか」という、UXの視点から逆算されたUI設計であることがよく分かります。
医療アプリにありがちな「冷たさ・事務っぽさ」がなく、子ども向けにも寄りすぎず「信頼感」を損なわない、絶妙なグラフィックとカラーのトーン&マナー。深夜に見る親の目に優しい配色やフォントの可読性など、細部に宿る「優しさの設計」からは、デザイナーやディレクターの執念を感じます。
『アソビュー!』は、休日の「どこ連れて行こう問題」を解決してくれるお出かけ予約アプリです。「当日予約OK」「雨の日OK」といった親が本当に欲しい条件で、子どもが楽しめるスポットを瞬時に検索できます。現地のチケット売り場の行列をスキップしてスマホ1つでスマートに入場できる、親のタイムマネジメントの強い味方です。
私は旅行先で予定が変わり、急遽レジャースポットを探した際、『アソビュー!』で当日のいちご狩りをお得に予約できました。
プロ目線で感心するのは、「当日予約OK」「雨の日OK」など親が求める条件フィルターが最適な位置にある点です。タップだけで絞り込める見事な情報設計が、探すストレスを極限まで減らしています。
このサービスは、現地で行列に並ぶという無駄な時間をUXから消し去りました。直前にスマホで購入し、現地ではシンプルなUIの二次元コードを提示してスムーズに入場可能。「子どもを待たせない=子どもがぐずらない=親の平和が保たれる」という重要な価値を提供してくれます。
アプリから得た「多様なユーザーの課題をUI/UXで解決する」教訓は、実際のWeb制作現場でも活きています。
例えば、私が携わった某大手鉄道会社のサイトリニューアルでは、通勤客やベビーカー利用者など多様な訪問者に向け、「余裕のないユーザーを救う設計」を以下2つのコンテンツに反映しました。
遅延時のユーザーの焦燥感は、「キッズドクター」を利用する親のパニックに重なります。そのため情報の階層化と直感的UIを徹底し、運行状況ステータスを最上位に配置。また色覚特性の方にも配慮し、コントラスト比を厳格に設定。「赤と緑」といった色だけでなく、形と文字を併用することで誰もが瞬時に「平常運転か、異常事態か」を判断できる認知負荷の低い設計を実現しました。
ベビーカーや車椅子利用者にとってエレベーター等の動線は死活問題です。そこで駅案内ページでは直感的なアイコンを採用し、アクセシビリティの観点から音声ブラウザ対応にも注力。細部のテキストまで精査し、音声だけでも行動できる設計を追求しました。育児アプリから学んだ「リアルな状況に寄り添う」という、ディレクターとして本質的なアプローチを実践した事例です。
今回紹介した3つのアプリは、どれもユーザーの隠れたニーズを徹底的に研究したプロダクトでした。
UX設計ではペルソナ分析を行いますが、私自身、親になって初めて「エレベーター探しの苦労」など当事者でしか気づけない課題を痛感しました。「机上の空論を避け、解像度の高いリアルな情報を泥臭く集めることが何より大切である」ということを、改めて思い知らされました。
今回ご紹介したアプリのように、ユーザーやお客様が抱える「リアルな課題」をテクノロジーとデザインの力で解決していくことはとても有意義であり、Webディレクターとして、これからもそんなモノづくりに貢献していきたいと強く感じています。